インスリン・グルカゴン・アドレナリンの連携と血糖コントロールのしくみ

私たちの体は、常に血液中のブドウ糖(血糖)を一定の範囲に保つよう調整されています。

この血糖値の調整に関わる主なホルモンが、「インスリン」「グルカゴン」、そして「アドレナリン」です。

それぞれが異なる状況で働き、互いにバランスを取りながら、私たちの命を守っています。


インスリンの働き:血糖を下げるホルモン

インスリンは膵臓のランゲルハンス島*にあるβ細胞(ベータ細胞)から分泌されます。血糖値が高くなったとき、インスリンが分泌されて、ブドウ糖を血液中から細胞に取り込ませ、血糖値を下げる働きをします。

インシュリン値が最高になるのは、食事開始後約15~30分です。

*ランゲルハンス島は膵臓に存在する内分泌組織で、α細胞からグルカゴンが分泌されます。グルカゴンは血糖値を上昇させるホルモンであり、肝臓でグリコーゲンを分解してグルコースを放出させ、筋肉を分解したアミノ酸からブドウ糖を合成する糖新生を促進します

 

具体的には次のような流れで作用します:

  1. 肝臓の細胞がブドウ糖を「グリコーゲン」という形で蓄え始めます。

  2. 筋肉細胞もグリコーゲンとして蓄積し、運動時などに使用します。

  3. それでも余ったブドウ糖は脂肪細胞に送られ、脂肪に変えて貯蔵されます。

このように、インスリンはエネルギーの保存を促すホルモンです。

しかし現代のように食べ過ぎや運動不足の生活が続くと、インスリンが働きすぎて脂肪がどんどん溜まり、「肥満」や「インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる)」が起こりやすくなります。

インスリンが十分に分泌されなくなったり、効きが悪くなってブドウ糖が細胞に取り込まれなくなると、血糖値は高くなり、「糖尿病」の状態になります。

糖尿病が進行すると、体内の細胞がエネルギー不足となり、逆に体重が急激に減ってしまうこともあります。


グルカゴンの働き:血糖を上げるホルモン

インスリンと反対の働きをするのが、膵臓のα細胞(アルファ細胞)から分泌されるグルカゴンです。

血糖値が低くなると分泌され、肝臓に蓄えられていたグリコーゲンをブドウ糖に戻して血液中に放出し、血糖値を上げます。

また、グルカゴンには脂肪分解を促進する作用もあります。蓄えられた脂肪が分解されて血中に放出され、筋肉や他の細胞がそれをエネルギーとして使えるようにしてくれるのです。

たとえば、絶食状態でも私たちが数日間活動できるのは、グルカゴンが体脂肪をエネルギーに変えてくれているおかげです。


アドレナリンの働き:緊急時の即効型エネルギー供給

第三の重要なホルモンがアドレナリンです。

アドレナリンは副腎(腎臓の上にある小さな臓器)から分泌され、「ストレスホルモン」とも呼ばれます。緊張、驚き、恐怖、急な運動など「緊急時」に分泌され、瞬時に体を「戦うか逃げるか」の状態にします。

このとき、アドレナリンは血糖値を上げるために次のような働きをします:

  • 肝臓に作用してグリコーゲンを分解し、血糖として放出させる

  • 脂肪細胞にも作用し、脂肪を分解してエネルギー源として利用可能にする

  • 筋肉にエネルギーを供給して瞬発力を高める

つまり、アドレナリンはインスリンと対立するように見えますが、「一時的に」「すぐにエネルギーが必要なとき」にだけ働く特別な存在です。

例えば、スポーツで急にダッシュする場面や、災害時にすぐ逃げなければならないとき、アドレナリンの力で体内のエネルギーが瞬時に動員されるのです。


血糖コントロールは3つのホルモンの絶妙なバランスで

私たちの体内では、インスリン、グルカゴン、アドレナリンという3つのホルモンが協力し合って血糖値を一定に保っています。

  • 食後:インスリンが働き、余った糖を蓄える

  • 空腹時や夜間:グルカゴンが働き、肝臓の貯蔵を血中へ

  • 緊急時や運動時:アドレナリンが働き、即座にエネルギーを供給

このように複雑かつ繊細な調整機構によって、私たちの生命活動は保たれています。


健康のために知っておきたいこと

血糖の調整は私たちが意識せずに日々行われていますが、そのバランスが崩れたときに病気が発症します。特に注意が必要なのは以下の点です:

  • 過食・高カロリーの食事:インスリンが過剰に働き、脂肪として蓄積され肥満に

  • 運動不足:筋肉がブドウ糖を使わなくなり、インスリンの効きが悪くなる

  • 慢性的なストレス:アドレナリンの分泌が続き、血糖値の変動が激しくなる

  • 糖質制限のやりすぎ:極端な糖質制限は、体が常にグルカゴンやアドレナリンに頼る状態になり、バランスが崩れることもあります。