私たちの体は、運動をするとエネルギーを必要とします。そのエネルギーは体内に蓄えられている栄養素、たとえばグリコーゲン(糖)や脂肪などから供給されます。
しかし、運動の種類や強度、時間によって、使われるエネルギー源は変化します。本稿では、運動と代謝の関係について、血糖、グリコーゲン、脂質、そして筋肉の働きを中心に、わかりやすく解説します。
グリコーゲンの役割と限界
まず、体内でブドウ糖(血糖)の予備として蓄えられているのが「グリコーゲン」です。これは主に肝臓と筋肉に蓄えられています。
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肝臓のグリコーゲン:約100〜150gが蓄えられ、血糖値の維持に使われます。
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筋肉のグリコーゲン:300〜400gほど蓄えられ、運動中に筋肉が直接利用します。
食事をしない状態で生活していると、肝臓のグリコーゲンは半日程度で使い切ってしまいます。しかし、実際には完全に枯渇することはまれです。
なぜなら、血糖が低下し始めると、脂肪や筋肉中のたんぱく質が分解されてエネルギーに変わる「糖新生」などの代謝プロセスが働くからです。肝臓は自身のエネルギー源も確保しながら、血糖の恒常性を保つように調整しています。
このように、体内の栄養素は、絶えず「分解」と「合成」を繰り返すことで、体のバランス(ホメオスタシス)を保っているのです。
筋肉の種類と使うエネルギー源
運動の際に使われる「骨格筋」には、大きく分けて2種類の筋繊維があります。
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遅筋(赤筋):酸素を使い、脂肪酸をメインにエネルギー源とする。持久力に優れた筋肉。
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速筋(白筋):瞬間的なパワーを出すために、主にグリコーゲン(糖)をエネルギー源とする。短距離走などで活躍。
ウォーキングや軽いジョギングのような有酸素運動では、遅筋が優位に使われ、脂肪の燃焼が進みやすくなります。
一方、短距離ダッシュやウェイトトレーニングのような無酸素運動では、速筋が中心に使われ、グリコーゲンを主に消費します。
運動と乳酸の関係
高強度の運動をすると、筋肉は急速にエネルギーを使おうとします。その際、酸素の供給が間に合わなくなると、乳酸(にゅうさん)という代謝産物が生成されます。
これが筋肉にたまると、筋肉の内部が酸性に傾き、「筋肉疲労」や「痛み」として感じることがあります。
このような状況では、運動を続けることが難しくなり、結果的に脂肪やグリコーゲンを十分に燃焼させる前に運動を終えてしまうことになります。
しかし、激しい運動のあとにウォーキングなどの軽い運動を行うことで、乳酸は筋肉にとどまることなく、肝臓や他の筋肉に運ばれて再利用されます。
これを「クールダウン(回復運動)」といい、乳酸の代謝を助け、筋肉の回復を早める効果があります。
有酸素運動の効率と限界
脂肪を燃焼させるためには、有酸素運動が効果的です。ウォーキング、軽いジョギング、サイクリングなどが代表例です。これらは、心拍数が適度に上がり、長時間続けやすい運動です。
しかし、単位時間あたりの消費カロリーが少ないという欠点もあります。
ウォーキングで脂肪をしっかり燃やすには、一定以上の時間が必要になります。例えば1時間歩いても、せいぜい200〜300kcalの消費です。
そのため、忙しい現代人にとっては、運動だけで体重を減らすのは非効率な面もあります。食事の調整と運動の組み合わせが理想的です。
運動によるカロリー消費と脂肪燃焼の計算
運動によるカロリー消費量は、次のように大まかに見積もることができます。
たとえば、体重70kgの人が10kmランニングした場合:
脂肪1gあたりのカロリーは約7kcalとされていますので、700kcalを脂肪で換算すると:
つまり、5kgの脂肪を減らすには約500kmのランニングが必要となります。
あるいは、50回分の食事を減らすことに相当します。これはあくまで理論値であり、実際には体の代謝効率や筋肉量、運動の強度などによっても差が出ます。
ランニングの利点と注意点
ランニングを日常的に行っている人(いわゆる「ランナー」)は、スピードが速いために短時間で多くのカロリーを消費できます。
また、月に数百kmのランニングを継続していれば、ウエイトコントロールを計画的に行うことも可能です。
ただし、急激に運動量を増やすと、関節や筋肉に過度の負担がかかり、ケガにつながることもあります。
ランニングに限らず、運動は継続可能なペースで行うことが最も重要です。
運動と代謝のまとめ
運動は、脂肪や糖を消費し、代謝を高め、健康や体重管理に役立ちます。しかし、その効果は運動の種類・強度・持続時間によって異なります。
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軽い有酸素運動:脂肪燃焼には効果的だが、時間が必要。
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無酸素運動:糖を主に消費し、筋力アップや代謝向上に効果的。
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クールダウン:乳酸処理を助け、疲労を軽減。
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継続が鍵:無理せず、生活に合った運動習慣を作ることが最も大切。
また、運動だけで痩せようとすると大変です。食事のコントロールとセットで行うことで、効率よく健康的な体作りが可能になります。